彗星軌道/長歌

天空は開かれたのか
天空は閉ぢられたのか
絶え間ない漂泊の涯て
絶え間ない新たな漂泊、その基点
周回軌道をなぞりつゝ
この周回はまへに来た周回でなく
あとにゆく周回でなく
今だけの周回といふ永遠の螺旋の途中
波が散る
波と波とが重なつて生まれた波が散るやうに
寄せて遭へても別れ散る
離れることを嘆かうか
遭へた幾憶分の一
奇跡に咲いた花として
慈しむやうやはらかく抱きしめようか
通り雨
あるいは彗星
拡散を続ける宇宙
浸食を続ける海に浮かぶ泡
砂が零れる
星は流れる

水槽の底で眠つてゐる音叉 もう遭ふことのない彗星がある

鼓膜からこぼれしまふ海底に鈴を沈めて 晩夏の涯に





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