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 2019年5月5日(日)   立つための無茶ならあへてするべしと・・・
Back to the basic ねえいま生きてゐることだけで幸せなのに

赦しがたいものたち一つ二つ乗せ思ひの河よ悠然とゆけ

かしましい時代に息を吸つてゐる その手に糸は掴めてゐるか

囚はれない自由が生かすわたくしを そして世界はただ愛ほしい

例へば涸れたあるいは涸れる川ならば土に委ねる救済 久遠

北も好しされど南はなほも好し二重螺旋の歌声を聴く

冬に在れば南を祈り夏に在ればただひざまづく 敗者の矜持

鳥に魚に されどもけふは樹で在らむさう願はくはおほつごもりに

哀しみを湛へた窓をあけたのはわたくし そこに荒野がなくても

薄めても滲んでしまふ身のうちの毒 全身に「おやすみなさい」

鳴らぬならみづから吹かう 閉ぢた目に見える喇叭はさぞや高らか

何者かと問はれわたしはわたしだと答へれば風 あきづしまやまとゆ

この身から出てこの身へと戻るものを数へることをもう止めました

来ることは還るとふこと また孵りまたゆく涯の空に土に血に

鳥はよし魚もまたよし されどこの身は人ゆゑに立ちたく思ふ

みづ匂ふ記憶の繭に匿はれあの日をいまも真ん中とする

来たことはなべて歓びありがたう この夕ともす胸にある標

海を渡るため舟を漕ぐそれくらゐみな明瞭で在れ 寝待月

その時が来ればおのずとゆく道はあらはれるはず 雨もまた良し

また風を感じてゐたいと願へた日 今ここにゐる唯一の解

空の色を変へたいならば目を閉ぢて呼吸をひとつ この手の先へ

哀しみを糧とし謡ふをさなさがゆく雲に似て 暦をめくる

人はみな己の岸辺から見える景色のみ知る また夏がゆく

それはシャベル ゆつくりゆつくり掘るうちにかならず届く思ひとふもの

割れガラス素足で蹴つてみたくなり空に笑つた さういふ自由

ほんたうのことは余りに朴訥で丸くちひさい てのなかの玉

呆気なさを恐れてしまふそれが愛 真砂さらさら築いて壊す

こゑはをとをとは思ひとしじにぬき手に巻きもたばいづへに届かむ

不確かといふ確かさに触れた指を燐光は発つ はじまりの夜

透明な軛はづれて 点として在ること線で面で在ること

はじまりは慈愛の母か厳酷の父か それでもそれでもそれでも

行くことはまた帰ること巡ること 人も鼠も明日へと走る

変はることを恐れるなかれ また雲の流れる時が来たといふこと

在るといふことは変はるといふことと知つてをります 命の螺旋

人であることの歓び哀しみをただそのままに命は謡ふ

終はることはたぶんそれほど怖くなく終はつたとしてそれは無ぢやなく

ぬかるみも砂漠も土に変はりなく立つてゐるならただただ歩け

それがたとへ霧であらうと薄氷であらうと そこに土ある限り

泣けないでゐた日を夢に見るやうにくぢらは目指す 此処を此処から

をさなさはアリスのうさぎ あした吹くかもしれぬ風ならば待てばよい

茫漠の原野を進むやうなもの それでも今はひとりではない

贖罪といふほどぢやなし ただ過去を過去へと仕舞ふわたしの儀式

受刑者の時間はとほく木香薔薇 誰にも知られず咲いたらいいよ

開けてしめ閉めてはあける窓の先にそれでも風は吹く あたらしく

咲くことを願ふは散るを願ふこと さくら降らせる歓びのした

曇りには曇り雨には雨ゆゑの色たしかめる ただ確かめる

しあはせを謡ふこゑなど言葉など けふに逢ふまで知らなかつたよ

滲むやうにくぐもるやうになのになほ響いてしまふほんたうのこと

この春はこの春として暮れてゆけ もうないといふことも含めて

生きてゐる この祝福の意味を知る為に生まれて来たのだと知る

ことはりはことはりゆゑに時にひとは解き放たれたい 異なる空へ

末梢は源となり源は末梢となる 細胞の夢

供へるべき花などはなし受け継いだすべてがそれと ただそれだけと

とほすぎずまた近すぎず見えてゐるその少し先 月の照る場所

焦がれながら拒絶してただ護らうとしたもの溶ける 世界にひかり

感情も循環をする 冬の先に春来るごとく地に伏すごとく

自転して公転もするそれゆゑに思ひの海に潮ひき満ちる

負はされた負つた境界線を踏む 山茶花梅雨もけふは優しく

相克のこほりとほのほうちがはの もう泣かないでホメオスタシス

ゼロ座標 帰れる場所は持たずとも過去に未来にまた還る極

浄化されることを求めるゆゑにひと 空のあをさに陽のぬくもりに

違和感は地・共感は天として謡へばいいよ 種子らよ育て

夕暮れの雑踏といふ亜空間 答へはいまだ出る気配なし

末端が抹消されてゆくやうな気がして ここに安堵がひとつ

それを多分ひとは欲張り者と呼ぶ いまも最初のその日が知りたい

それはまるで引き戻された現実がかすかに軋むやうで 再会

かう在りたい まだ拭へないをさなさに理屈はいつも空回りする

とほい日は瘡蓋のまま根を張つて今といふ名の結び目の意味

限られた領域でのみ生きてゐる ただそれだけの息苦しさと

おしやべりで先走りする小人たちよ 傍観といふ術を覚えよ

ゐたことの記憶は遺り存在はただ消えるのみ 世界図書館

さういへばかつて両手を緩くゆるく繋いで抱きたかつたのは空

成熟はすこし哀しい 風だけがゆく県道の真ん中に立つ

海が鳴る森の樹が鳴く両耳を塞いだ奥でわたくしも鳴る

華やぎをしばし眠らせ向かふ先に雪霜も降りまた絮も降る

掛け違へた釦をはづす気もなくてもうそれでいい そのままでいい

違和感にまみれて息を吸ひ吐いてそれを忘れる 朝の再生

耳すましとほくの山のその奥の土に寄り添ふ体温を聴く

わたくしといふ野辺の草 陽に焦がれ風に伏しまた土に抱かれる

空たかく宙とほく ねえどれくらゐちひさくてでもおほきくなれば

意味ばかり求めてしまふ頃も過ぎ 万物象るものが世界と

吸ひ込めばかすかに澄んでゐることに蝕まれる気がして 神無月

降りさうで降らない雨を待つよりも 決めてしまへばわづかに安堵

かつて風が吹いてゐました絶え間なく わたくしといふ真ん中の森 

とほい日の予感は叶ひもうまへにあの河はない 背後のみづをと

長くなる影へと笑ひかけてみる 今はまだいいまだ暖かい

秋の昼はどこか空々しくもあり 不安を未明ひとつ宥めた

雨に風とほく近くに世は響き生あるものは波に連なる

ほの暗い空 明けゆくか暮れゆくかしばし惑へば世界に独り

ないやうでありあるやうでない色を宿す眼窩の夕 虹は立つ

わがうちをそれぞれ周りあふ時を待つ人工衛星 そして決めよう /サテライト

いにしへの瓊音はもつと硬く澄み乾いてゐたか 海の勾玉

手のうちの重み涼しく紡がれてゆらにもゆらにけふ聴く瓊音

爪先を浸してゆくやう一面の浅い朝へと踏みだす彼岸

川 それと気づかず渡り今にして橋と呼びたいものは日常

肺胞は気配を抱へ放たうとしてゐる いづれ秋に咲く花

海は海で空は空 まだ哀しみは哀しみのまま爽籟は吹く

ゆくみづの果てなど知らず時にただ抗はずまた従はず 秋

それと知らず植ゑつけられた境界線 越えゆくほどに海を感じる

線 それは哀しみそして歓びと縛られ解く頭上の銀河

草に臥しみづに浮くやう横たはる 分かたれたとふ原初の痛み

それぞれの周回軌道 なべてみな巡り合はせといふほどのもの

色よりもをとで確かめたい そこに波が溢れてゐると思へば

そこにゐて雨も風をもただ受けて立つものよなほ誇らしくあれ

糸は細く幾重幾本縒るならば 例へば空に応へることも

時に海へ降るひとしづく 選べないことをも選べ世にあればこそ

風を嗅ぎさがしてしまふ 訪ふことはいまだないあの断崖の空

時に何も見えない像を結ばない真昼 おやすみわたしの言葉

時にこの地面が沼にも硝子にも思へたとして あへて見る空

奥でまだ膝を抱へるをさなさにそれでも立てと言へる成熟

切り離すことで得られるその平穏ゆつくり転んで気づき おいで

透明でわづかに甘い香を放ち冷たい温みを哀しみとする

いつの日か誰たがはずに還れるから 鼈甲飴の内側の泡

殊更に背伸びなどせず偽らず息を吐き吸ふ 暖かな昼

縛られてゐたものを脱ぐ 今ならばちひさくならずに眠れるだらう

足りないといふほどぢやなく満たされてゐるほどぢやない 時間やはらか

このくらゐ 線を違へて引き続けた記憶に今は花を添へやう

いち日を終へ落雁の花びらの端が解けるやう わたくしは

土に立つ 幾億千の種と灰と時間に繋ぐ端末として

ゆく夏と来る秋が棲む夕間暮れ 生きる時間といふ境目に

窓のそとの梢は揺れて 護られてゐるとふ罪の意識ぬぐへず

半音階たかくなるらし心なし 九月へ向かふために響きは

暴かれる歓びもある 南中の光に潜む影は願ふか

天気図に掻き立てられる不安とか安堵だとかも彩りである

日常は些事に大事にゆき集ひ はたして川か海原なのか

万物の霊長たるやひとの子よ その意味に価値知り得ぬとして

唯一の言語は繋ぐ手の温度 見えず聞こえずなれど伝はる

たぶん同じものは見られてゐるだらう かつてその背に負はれたあなたと

蜻蛉ひとつふたつ飛びゆく水辺から放たれ いづれいづこにも果て

時にこの身体が土となり風に舞ふ砂となる かすかな記憶

匂ひのない匂ひが秋と風に知る かつてもそしてこの先もまた

稔りより華に惹かれるやはりまだ 光と呼ばれる残酷にまだ

降り始めのひと粒を受け鳴るならば葉より屋根よりみづたまりがいい

この雲の境目のさき 雨が降り雨がやむ場所虹の立つ場所

世界から授かり給ふたものなのだと ものに名はあり輪郭もあり

曖昧さをただそれとする空のした 天気予報はあへて聞かない

氷河ながれ大陸はゆく 絶えず動く世界のをとは聞こえなくとも

わたくしは見られてゐるのか見てゐるのか 月けふはまだ細くをさなく

夜明け前おほきく低く横たはり夏オリオンは曲線を帯びる

色を聴きをとを嗅ぎ香に触れるやうに そして季節がまたひとつゆく

薄暗いカフェは水槽 ひとはみなネオンテトラのやうに漂ふ

とほく来て海の時間を刻めない呼吸のままに草の香を嗅ぐ

還りたくてゆきたくてただゆくしかなく叶ふことなき半分 愉楽

その先は知らなくてよい たぶんこのわづかな余白こそが救ひと

海たちが産んだ幾百 紡いでは涼しい重みに安堵してゐる

陽を仰ぎ覇を競ふのか抗ふかくきやかゆゑに この夏の花

炎天のした灯を点す 生きやすくあるは逆らふことなのでせう

二次元の景色にはない奥行きと瞼の先の知らぬ景色と

朝が好きと言へるくらゐに歳をとり 花よりも根に虹よりも雲に

パーソナルスペースといふ防波堤あたりに満ちて 朝の雑踏

夏の夜はわづかに重くわが奥をゆく古代魚が身をしならせる

明け方に蜩が鳴く 縫ひ取りをやめてしまつた裂け目のやうに

やみさうでやまない雨にとほい日を重ねて聴いた おもちやのピアノ

目の前の色が熟れゆくことも視ず走る日もあり 汗のふたすぢ

地下鉄のをとあたたかく 内側は生まれる前をまた呼び覚ます

鉄塔がやさしくなつた 身構へてゐたわたくしのあの日と共に

すこし空いた距離の分だけ風はゆき赦せなかつたものたちもゆく

百年を数へた群青 千年を待たずに空とみづを名に負ふ

哀しみを食べては生きたあの頃を溶かしたやうなみづを地が吸ふ

道の端に晩夏は凝る 片翅の亡骸はまだあををせがむか

濁りへと空はその身を浮かばせてそれもまた空 夏の選んだ

夜そよぐ風に凭れて深く深く吐き出した息 そんな肯定

猛禽の直線野獣の曲線を今も夢見る 細胞の歌

抗はずなべて条理と思ふたび 透けつつ汚れゆく翅のをと

諦めに近似するもの そのままにみな抱き湛へ隔てゆくみづ

何物にも染まらず属さず傾けずゐられぬゆゑに われ此処に在り

理不尽と不条理すなはち摂理とふ わたしはわたしに数歩寄れない

薄らとこころに霜を纏ふやうに呼吸してゐる対岸の国

戒めは時に冷たくまた甘く 裁きの庭に萱草の咲く

諦めに近似するもの そのままにみな抱き湛へ隔てゆくみづ

線を引く目盛りを少しずらしたら川が渡れてゐた 夏の霜

葉裏からひとしづく落ちやがて澄むその瞬間をそつと待ちたい

まるで霜が降りてくるやうかうやつてすべてをくるむ春の月 また

赦すことと責め続けること わたくしの輪郭線はまつすぐぢやない

退屈と無気力 死には至らずとも病なのだと六月の病

自分流を叫ぶ輪唱絶え間なく けふ雑踏で雲に恋した

幾度も思ひの硝子ケースへとハンマー振るふ いま生きてゐる

わたくしが愛でて築いた檻 どうか解き放たれるただそれだけを

またともに蛹となろう早春よ その背はすでに風も陽も知る

それぞれの周回軌道のその先で遇へるかなんて誰も知らない

喩へれば舟 時化ののち蒼天はまた広がると信じていいよ

降る雪もあるそれを受けとめる地もまたある どうかそこに倖あれ

授かつた眼も耳さへもふたつづつ 窮屈であり恩恵であり

渡れない無数の河があることが少し解つた 冷ややかな熱

平等といふ幻想を信じた日 風は冷たくでも心地好く

様々な屈折率のレンズ製檻を出たいと望んでゐたのに

地続きといふ錯覚は錯覚でしかなかつたと ひとり氷原

見えすぎる目ならば少し瞑ればいい わたしの中の空白に問ふ

瞬間の衝動そして一瞬ののち身に刺さる破片 動くな

投げ棄ててしまひたいほど哀しいと 絡まる蔓の根を掘り返す

火が着いたやうに泣くあのをさなさとともに揺蕩ふ架空の水面

そこぢやない 見るべきものの選択は冬の終はりに吹く風に似る

彼の地では海なほあをく春深くあつてくれよと西風に告ぐ

その先になにがあらうと雨は降り陽も射す 巡れ原初の摂理

懐かしい予感は風に醒まされる このままでいい細胞の謡

黙礼を空へと向かひ深く深く それでも海はこの裡にある

箱庭を満たして崩しまた満たす 呼吸するやうけふもあしたも

ああさうか さうやつてまた踏みしめる一歩がけふの恩寵である

窩あるいは腔としてあるそれゆゑに響かせられてゐた ありがたう

伝はつてゐるとか伝はらなかつたとか 空ゆく鳥を近く感じる

さうやつてまた咲くんだね梅の花 贖罪もよし祝福もよし

指で塞ぐ たしかめてゐるものそれはただ慕はしい真水の記憶

溶けだしたのち透けてゆく風のなか陽のした土のうへ その日まで

置き去りの思ひ 凍土の氷壁に眠る原初といま邂逅す

雪豹よ 待つでも諦めるでもなく越えた夜の数空へと放て

温かな海てふ夢想それなのに あの懐かしい吹雪に果てたい

をさなさは原生林の奥津城に 月だけが知る月が見てゐる

この胸の狂乱うつし風巻け もう極夜の意味は知つてゐるから

埋まらない真ん中越しに観た水面 わたしよわたしを育てなほして

また巡る夜の匂ひが繰り返し諭す 故国は流刑地なのだと

再会はいま果たされた おかへりとただいまで織る河滔々と

をさな児はまだ主張する気づいてと 幾百歳も年輪すらも

半世紀分の記憶と感情の土蔵なのだと 柔肌のそこ

太古なる海の明るさ湛えゐる玳瑁螺鈿 かつていをゆゑ

影の色でまた確かめた春の月のひかりと土の匂ひ ただいま

まるで霜が降りてくるやうかうやつてすべてをくるむ春の月 また

正しさを正しさとして信じたい日はもうとほく さういふ愉楽

悔いるよりもただ受けとめた 葉桜よさうだねこれでよかつたんだ

けふはやけに空がとほいと項垂れる木々に黙礼ひとつ 行かうか

ひかり差す五月どうしてこんなにも馴染めずにゐる 清々しさに

ささやかな自信の奥で水銀のやうな不安がじつと見てゐる

みづからを励ますといふ誤魔化しがはらり剥落して半世紀

異端視もひとつの陶酔 南洋の果実つめたく持ち重りする

背に負つた影のながさもおほきさも最早どうでもいい 泣き笑ひ

土は愛・泥は救済かうやつて戦つて来て なにとわたしは

何がどうといふほどぢやない違和感がまだ乾かない髪くらゐに 雨

ゆつくりとでも確実に衰へてゐます それでも日々は愛しく

言ふなれば河の中ほど まだ渡りきれないことはきつと歓び

星までの距離を夢想し満たされた頃を忘れて 知らないうちに

立つための無茶ならあへてするべしと あの日のわたしをいま抱きしめる
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