瓊音

世におほきみづとふものゝ海なれば
世にもちひさきみづこそはけだしなみたに違はざれ
干て干るも満ちまたも満ち
満ち満つも干てまたも干て
いさゝか辛く沁むれどもなぞも辛きのたゞちかく
あに思へやも遠きけを
弥遠長き悠けきけ
世にあらたしきみづなれば
垂水のみづのひとしづく岩間ゆしたゞるましみづや
また世に古きみづこそは
あものうちにて揺蕩ひてひちゐしみづに違はざれ
生れたるものと生れしむるものなるゆゑにそれゆゑに
潰ゆも潰えども生れ生れて
古きはいづれあらたしく
あらたしきとていづれ古る
世になつかしきみづなれば
夜にそほ降るあまつみづ
世にいきづかしきみづならば
濁りて淀むにはたづみ
浪に帰れぬしほだまり
行くも帰るもあらなくに
あざらかなるをいかばかりたゞ思ほしくあるらむや
経ては経るれば老い老ゆる世のことはりは違へじて
かつ在り在れば願はずも
何をか、たれか、いづこをか
いつかをいたみ穢すてふ世のことはりも違へじて
このうつそみはみづのごと
なほ言ふなればあれは魚のごと沁みゐるは
このまでをあゆかしむれば
あゆ、ひかたあゆきあゆきてしづくあゆ
かつにあゆめばあゆ、ひかたあゆきあゆきてみつぼあゆ
あたかもあゆくことごとに
浪生れしむるあゆことも
あに思へやも有経とは
在りてふことは
在りゐるは
在りがゝぎりでうつそみを
いためて穢すことはりは違はましゞと沁むればや
たれかのいたむさまだにも
たゞめに見てはあがことゝ沁みまくほしくなほも思はむ

蓮の葉にたまれるみづの玉を貫き垂れゆらかさむ
瓊音をなさむ有経るかぎり

いたきはし琴とるなへにしゞに増されど
真楫榜ぎ初めつるゆゑにひとり行かなむ



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