みづたま/片歌連歌(独詠)



たゞ謡ふことしかできぬ それが玉音
わたくしといふ弦楽器 祝の琵琶は

染み付いた五七の調べ いざ言祝げよ
言霊よ、湧く血と躍る肉に任せて

爪先に籠る躍動 大地を蹴らう
憑依する阿国や天宇受売が統べる

阿ねりで誤魔化せるならプラシーボだと
沈黙が導く呵責なき自尊心

黙示せよ それでも未だ信じてゐると
身代はりにさへもなれない愚者の幸福

平穏と安寧を得た代償の意味
果て給へ 居所のなきジレンマなどは

叙事詩とて所詮うたかた 命は無常
迷彩の梦は砂漠の門のレリーフ

太梁へ残すか迷ふこの千社札
錫杖の小環鳴らさう 空に掲げて

自覚さへしてしまへれば 空は東雲
みづからに告げるペルソナ・ノン・グラータと

アニムスといふ偽悪者のペルソナ砕く
老賢人、グレートマザーに統制されて

成熟といふ名の老いに風化する義務
極まれば沈む 孵せぬ卵子なほ熟れ

逝くと言ふあなたがなほも洩れ零す生
まなざしにかつて宿した切なさ緩め

遅すぎた出逢ひが出合ふ これも宿命
深く長く吐く溜息で過去に決別

新しき息吹はつねに弱者に萌える
衰退と堕落が末路 力ある者

怖いのは破滅ではなくわが身の力
語りたい、語りたくない 忌々しいほど

望みとは堂々巡り アンビバレンツ
燃えさうでまたも燻る髪に残り香

焚き染めた袖は香れど絶えた炎環
秘術とふ大仰な銘打つならまして

解き放つには及ばない秘めた美意識
ふた匙の毒薬といふ未必の故意に

瓶詰めの未来を抱けば途方に暮れる
先端を見つめ続けて時針を恨み

風紋のその先の先 こゝに地、果てる
撓ませてもぐやうに羽 みづから散らし

発熱の暴走に耐へ撓る首筋
幽玄を宿す篝火 ひと夜なればと

擦れるたび幽けく響く 悲鳴が痛い
打絹の襞に滑らす指先の傷

蕩けゆく自我の境界 午睡の襞に
枯れさうな泪は気化し視界を阻む

胎生し種の進化した記憶を手繰れ
地の底で蠢くものは瓊の象

心地好き奈落の日々よ 自慰と自嘲の
幼さにアリスが堕ちた淡き執着

いづことも定めず着けばそれが答へと
北天に背を向け発たう この汀から

羅はかつて天女が探しゐたもの
結界のやうに羽衣(オーロラ)、闇夜に妖し

呪とは祝 世界はなべて相対を成す
不文律 一心不乱に唱へる呪文

かすかなる誰何の声に心乱れる
旋律は楽譜を逃れ辻に谺し

ニライカナイ、カムイコタンも祭りの系譜
流れ来る拍動 これぞヤマタイカの血

見つからぬレゾンデートル 鏡面動作
なほ生きる 恒常性の虜囚なるゆゑ

数へるは恒河沙、那由多 賽の河原で
しづかなる反逆それも刹那に果てゝ

遡上した太古の意志に逆らへぬまゝ
共振に哭く子宮とふパイプオルガン

吹き上げる潮は慟哭 鯨の祈り
水玉は無重力ゆゑとはに浮揚す








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