*「富士の山」

* 作詞:厳谷小波(文部省唱歌)

* 1 あたまを雲の 上に出し  四方の山を 見おろして
*   かみなりさまを 下に聞く 富士は日本一の山

* 2 青空高く そびえたち    からだに雲の 着物着て
*   かすみのすそを 遠くひく 富士は日本一の山


 巌谷小波については、寡聞にしてあまり知らないのですが、明治期の児童文学の祖、とされる人物だったと思います。唱歌では他に、一寸法師の歌詞も残していたはず。出身は記憶違いでなければ、甲斐の国ではなくて、東京の麹町界隈だったような、なかったような...。

 ともあれ、連歌発祥の地とされる酒折宮。その酒折宮も含めた、なまよみの甲斐は都から遠く離れていたがゆえに、甲斐歌という独特の謡いぶりの歌謡を育んだ土地でもあります。また、多くの歌枕が犇く国。
 甲斐の国の歌枕の中でも、最も詠まれたのが富士山であることは言うまでもありませんが、その富士を謳う現代の今様歌もまた、存在している...。

 足柄で感じたのは、
「足柄もまた歌の聖地だ」
 ということです。そしてそれは琵琶湖でも甲斐でも同じでした。ゆく先々の土地は必ず古歌が残されていて、歌があり、歌の聖地でした。そして、それはもはや何処が、というものではないのでしょう。大倭豊秋津島が大倭秋津島である以上、どの土地もこの国独自の倭歌の聖地。
 ...きっと、そういうことなのだと思います。

 だからゆきます。この国の歌たちと出会って、同時に出会いなおす旅です。わたしが謡うための旅です。それだから、わたしはまた、...ただゆくだけです。

 謡ふ国 うつせみの人
 謡ひ来て 謡ひ継ぎゆく
 大八島 日の緯なれば
 日の緯の 日の経なれば
 日の経の 歌斎く方
 斎く隈 国に満ちをり
 差し並ぶ あれなるもなほ
 差し並ぶ 方も隈をも
 差し渡す あれはし歌を
 差し渡す 方はし歌を
 大倭豊秋津島
 こに生れて こにそ老ゆらむ
 歌のむた 天児屋に
 手向けては 天宇受売に
 なほ手向け 市寸島比売
 あがみつゝ 頼むはあれや
 あが霊の まに/\生るゝ
 歌ゆゑに いづくいづへも
 産土や あたゝけし日に
 匂ふ土 風もすゞしや
 みづ澄めり 山たゝなづく
 謡ふ国 あが歌枕
 大八島国

 なまよみの甲斐もとつくに片歌にむだかゆるとふさきのうむがし

 夷曲もあな愛しきやし 奇魂、幸魂みな歌は玉の緒        遼川るか
 (於:酒折連歌碑前)


     


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 本稿を書くにあたり、参考にさせて戴いた文献を以下に記します。

・万葉集関連
 「万葉集検索データベース・ソフト」 (山口大学)
 「萬葉集」(1)〜(4) 高木市之助ほか 校注 (岩波日本古典文学大系)
 「新編国歌大観準拠 万葉集」上・下 伊藤博 校注 (角川文庫)
 「新訓 万葉集」上・下 佐々木信綱 編 (岩波書店)
 「万葉集」上・中・下 桜井満 訳注 (旺文社文庫)
 「万葉集ハンドブック」 多田一臣 編 (三省堂)
 「万葉ことば辞典」 青木生子 橋本達雄 監修 (大和書房)
 「万葉集地名歌総覧」 樋口和也 (近代文芸社)
 「万葉集辞典」 中西進 著 (講談社)
 「初期万葉歌の史的背景」 菅野雅雄 著 (和泉書院)
 「古代和歌と祝祭」 森朝男 著 (有精堂出版)
 「万葉集の民俗学」 桜井満 監修 (桜楓社)

・古事記
 「古事記/上代歌謡」 (小学館日本古典文学全集)
 「新訂 古事記」 武田祐吉 訳注 (角川文庫)

・日本書紀
 「日本書紀」上・下 坂本太郎ほか 校注(岩波日本古典文学大系)
 「日本書紀」上・下 宇治谷孟 校註 (講談社学術文庫)

・続日本紀
 「続日本紀 蓬左文庫本」(1)〜(5) (八木書店)
 「続日本紀」青木和夫ほか 校注 (岩波新日本古典文学体系)
 「続日本紀」上・中・下 宇治谷孟 校註 (講談社学術文庫)

・国造本紀
 「先代旧事本紀 訓註」 大野七三 編著(批評社)
 「先代旧事本紀の研究 校本の部」 鎌田 純一(吉川弘文館)

・妙法寺記
 「妙法寺記」 富士吉田市史編纂室

・古代歌謡
 「記紀歌謡集」 武田祐吉 校註 (岩波文庫)
 「古代歌謡」 土橋寛・小西甚一 校注(岩波日本文学大系)
 「上代歌謡」 高木市之助 校註 (朝日新聞日本古典選)
 「日本の歌謡」 真鍋昌弘・宮岡薫・永池健二・小野恭靖 編(双文社出版)

・上代語
 「古代の声 うた・踊り・ことば・神話」 西郷信綱(朝日選書)

・和歌全般
 「新編国歌大観 CD-ROM」 監修 新編国歌大観編集委員会(角川学芸出版)

・21代集
 「二十一代集〔正保版本〕CD-ROM」 (岩波書店 国文学研究資料館データベース)

・古今和歌集
 「古今和歌集」 小沢正夫 校注・訳 (小学館日本古典文学全集)
 「古今和歌集」 小島憲之ほか 校注 (岩波新日本古典文学大系)

・新古今和歌集
 「新古今和歌集」 小島吉雄 校註 (日本古典全書 朝日新聞社)
 「新古今和歌集」 久松潜一ほか 校注 (岩波日本古典文学大系)

・続後撰和歌集
 「続後撰和歌集」 國枝利久、他 編(和泉書院)

・新後撰和歌集
 「新後撰和歌集」 久保田淳 編(笠間書院)

・新千載和歌集
 「新千載集総索引」 滝沢貞夫 編(明治書院)

・新拾遺和歌集
 「新拾遺集総索引」 滝沢貞夫 編(明治書院)

・玉葉和歌集
 「玉葉集 風雅集攷」 次田香澄 校註(笠間書院)

・金葉和歌集
 「金葉和歌集 詞花和歌集」 川村晃生、他 校注(新日本古典文学大系9 岩波書店)

・夫木和歌抄
 「夫木和歌抄」 宮内庁書陵部(図書寮叢刊)

・歌枕名寄
 「歌枕名寄」 吉田幸一・神作光一・橘りつ 校註(古典文庫)

・貫之集 
 「貫之集」 田中喜美晴・田中恭子 校註(風間書房)

・草根集
 「草根集」 ノートルダム清心女子大学古典叢書刊行会
              (ノートルダム清心女子大学古典叢書刊行会)

・能因法師集
 「能因法師集・玄々集とその研究」 川村晃生 著(三弥井書店)

・飛鳥井集
 「飛鳥井雅章集 上・下」 島原泰雄 編(古典文庫)

・西行
 「山家集」 後藤重郎 校注(新潮日本古典集成)
 「撰集抄」 西尾光一 校注(岩波文庫)
 「西行物語」 桑原博史 全訳注(講談社学術文庫)
 「西行法師集」 (和漢墨宝選集、書藝文化新社)

・梁塵秘抄
 「梁塵秘抄」 榎克朗 校注(新潮日本古典集成)
 「梁塵秘抄」 佐佐木信綱 校訂(岩波文庫)

・土佐日記
 「土佐日記・蜻蛉日記」 村松誠一・木村正中・伊牟田経久 校注・訳(小学館)

・平中物語
 「平中物語・和泉式部日記・篁物語」 山岸徳平 校註(日本古典選 朝日新聞社)

・甲斐の国全般
 「甲斐の国の民話」 土橋里木 編(未来社)
 「なまよみの甲斐」 斉藤芳弘 著(山梨新報社)
 「甲斐国志/甲州文庫本」 山梨県立図書館郷土資料室蔵
 

 ※甲斐国志・井出家草稿は、「なまよみの甲斐」より孫引きさせて戴きました。

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 2005,02,12〜14  甲斐訪問
 2005,03,09〜11  執筆
 2005,03,12     いまのは倶楽部 実験会議室上にて掲載


  ※ 拙作「なまよみのかひゆ」に添えて掲載している写真の一部は「Sight-seeing
   Japan」さま、「デジタル楽しみ村」さまよりお借りしています。


                                  遼川るか 拝







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